本当は書庫にでも格納すりゃいいんだが、お世話になってるTRPG遊戯会さんで上げたやつなのでこっちに。
『限定的思考と嗜好』
トロワにある宿、『銀の月灯り亭』
冒険者の宿であるそこの一室、ベッドの上に寝転がりパラパラと紙を捲るカオエルフ。
名を、チェリー・ランスロットといい、トロウの魔法士協会に所属する未熟ではあるものの正真正銘の魔法士である。
年のころは…幾つ位であろうか?
本人が言うには故郷を離れたのが成人の少し前で、トロウへはかの悪名高き『存在法』が廃止され数年後にたどり着きその頃には成人していた、というのだから少なくとも170歳前後であろう。
退屈を嫌い、短い人生―そう、本人は500年の一生を短いと感じている―を少しでも有意義に過ごそうと親兄弟に内緒で家出同然に飛び出した故郷。
興味のないことは直に忘れてしまう彼女の記憶は、その故郷がどこであったのか、もう朧気にしか覚えていない。
故郷を飛び出したときにそれまでの名も捨てた。
チェリーというのは旅の途中で見かけた樹からとった名前だ。
その花の、咲いて、散る、その儚さが。
彼女の生命に対するイメージにしっくりときたらしい。
姓は、耳にした音から適当につけた。
ページを捲る合間に若さに任せてあちらこちらと歩き回った昔を懐かしむ。
色々な土地へ行き、色々な人に出会った。
そういえば旅の途中で婚姻を結んだ気もする…。
結婚してみてわかったのは、自分には安定した生活というのがほとほと性に会わないという事だけだった。
書置き一枚で抜け出してきたが…彼は今どうしているだろうか?
顔も名前も住んでいた場所も思い出せないので探しようもないが。
恋愛は、恋の駆け引きの間だけが愉しいと感じるのを自覚して以来一度も深い間になった事はない。
あまりにも相手が不憫すぎた。
だが、視線を―特に異姓の―視線を集めるのは嫌いじゃない。
寧ろ彼女の好むところだ。
だからこそ彼女はいつも肌を露出し、視線を集める。
そういう格好をしていれば男も家庭に入る事を期待しないだろう…。
「あ、この服可愛いわ?」
ぱらぱらと先ほどから捲っていたのは、服飾のカタログだったようだ。
むくり、とベッドから起きだすと早速彼女は部屋を後にした。
当然、服の手配をしに、だ。
「チェリー・ランスロットーッ!!なんと言う格好をしているのだお前はーっ!?」
トロワ魔法士協会の一室、導師が青筋を立てて大声を発している。
その前で耳を抑えて身を竦めているカオエルフ。
「お…お気に召しませんでした?」
恐る恐るというように上目遣いで顔色を窺う。
「お気に召す…わけがあるかーっ!!」
導師の剣幕に、流石の彼女もそれ以降その服を着て出歩く事はなかった。
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